第五回クオン「読書会」レポート 課題図書:『野良猫姫』

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第五回クオン「読書会」レポート

課題図書:『野良猫姫』

○ 日   時  :  2015年3月13日(金) 午後7時~
○ 場   所  :  クオン(東京都中央区月島)
○ 参 加 者  :  男女含め14人

 今回の課題図書は『野良猫姫』。猫詩人として知られるファン・インスクさんによる、初の小説です。

 先に原書を読んでいた方、読書会があることを知って日本語版を手に取ってくださった方、可愛い猫の装丁にジャケ買いした方……。皆さんそれぞれ『野良猫姫』の感想を胸に秘めつつ第5回の読書会スタートです!


◆『野良猫姫』日本語版ができるまで
 この本の編集者・藤井久子さんは日韓文学交流事業に長年携わるなかで、日本で紹介される韓国文学の点数が増えないことに忸怩たる思いを抱いていらっしゃったそうです。韓国文学を紹介する良い機会としてクオンの書籍の編集を担当してくださっています。
 この作品を翻訳したいと推したのは、韓国でネット連載されていた頃からその文章の軽やかさや温かみに魅かれていたというクオン社長の金承福。原作で400ページを超える大作のため、著者の許諾を得ていくつかのシーンを削った上での刊行となりました。
 また日本語訳の刊行にあたっては、ネット上で出資者を募るクラウドファンディングや校正者の公募など、みんなで本を作り上げるための新たな試みもなされました。

◆『野良猫姫』についての感想より
 藤井さんから制作の裏話をお聞きし、また“同時代を生きる韓国の普通の人たちの暮らしのディテールが良く分かるのが、この本の良さの一つ。韓国を知ってもらうのにも良い作品では”という感想をいただいた後、参加者の皆さんから小説の感想、好きなシーン、ドラマ化するならこの役は誰?など、自由にお話しいただきました。
 高スペック志向の社会にあってどちらかといえば低スペックの登場人物たちがほんわか楽しく暮らしていることへの共感や、ファヨルのお父さんのように父親不在の小説が最近は増えているといった話題からは、今の韓国社会の姿が垣間見られました。


 また、「猫」にまつわるイメージの日本と韓国での違い(最近こそペットとして可愛がる人が増えているものの、昔の韓国では猫はあまり良いイメージを持たれていなかったそうです)、敬語や方言などを翻訳する際の難しさなど、幅広い話題に及びました。
 なお原作を読んでいた方からは「好きなシーンが削られてしまっていて残念……」と惜しむ声も。皆さんの声が集まればいつかノーカット版が出版されるかもしれません。

◆皆さんの書棚から―お気に入りの本のご紹介―
 お話が一巡したところで、お料理の登場です。この日は料理研究家の趙善玉先生による韓国トックもお目見えしました。おいしいお料理を囲みつつ皆さんからのお話も更に広がります。

 参加者のお一人が、米原万理さんのご本を愛読書として紹介してくださいました。『野良猫姫』に米原さんの詩が登場するように、最近の韓国の小説には日本人作家の文章が引用されることも珍しくないそうです。どれだけ日本の作品が韓国に紹介されているか(逆に言えば、韓国の作品が日本に紹介されていないか)を感じさせられました。
 また別の方が韓国書籍の読書記録を見せてくださり、その点数の多さやジャンルの広さに皆さん驚嘆する一幕もありました。たちまちそのコピーが全員の手元に渡り、「私も○○持っています、今度読んでみます」という方も。やる気は伝染するのですね。

 ファヨルが<笑うネコのお隣さん>の仲間と過ごす時間のように、この日の読書会も一冊の本を巡って楽しいひと時を過ごすことができました。モデレーターを務めてくださった読者の野村真美さん、当日参加してくださった皆様、ありがとうございました!

<文責・I・A(『野良猫姫』校正担当)>