『私の生のアリバイ』著者コン・ソノクさんから日本の読者の皆さんへ

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2020年4月22日(水)に開催されましたオンラインイベント【「ショートショートシリーズ08-10」翻訳者が語る作品の魅力!】に際し、『私の生のアリバイ』著者コン・ソノクさんから、日本の読者の皆さんへとメッセージをいただきました。

⇒ イベントの概要はコチラから

 

<訳>

日本の読者の皆さま、小説家のコン・ソノクです。
日本で私の小説が出版され、嬉しく思っています。
「私の生のアリバイ」は、私の友人に関する物語です。
1980年、友人の身に何があったのか、私はよく知りません。
友人は1983年の春、自宅近くの貯水池に身を投げて自ら生涯に幕を下ろしました。
大学の仏文科に入って間もないときのことでした。
私は友人がこの世を去って初めて、1980年の5月、その友人の身に確かに何かが起こったのだと思いました。風のうわさに聞くこともありました。友人の父親は職業軍人、兄は「市民軍」だったため、父と兄の間には葛藤があった、というものでしたが、確かめることはできませんでした。友人は高校時代、フランス語の先生のことが大好きでした。だから大学も仏文科を選んだようでした。フランス語の先生は1980年3月に私たちの学校へやってきました。そしてその年の夏を最後に、二度と私たちのもとへ戻ることはありませんでした。戻って来られないところへ、自ら旅立ってしまったのです。何があったのかはわかりません。先生が自ら命を絶った理由について様々なうわさが飛び交いましたが、それを確かめることは永遠にできません。
「私の生のアリバイ」は、その死の理由を永遠に確かめることのできなくなった二人を思いながら書いた作品です。確かめようと思えばできたでしょうが、この作品を書いていた当時の私はまだ若く、何より勇気がなかったようです。何かを、中でも絶えがたい事実を確かめることは、時には怖いことでもあるからです。

日本の読者の皆さまと、1980年5月の韓国の光州についてどんな話ができるでしょうか。
この小説をきっかけに、いつか語り合える機会が訪れるでしょうか。訪れたとして、自分が何でもない顔をして話せるかどうかは、本当のところ今もわかりません。

皆さまに語りかける機会をくださった出版社の社長、翻訳家、そして私の語りかけに耳を傾けてくださった皆さま、ありがとうございます。

2020年4月21日 韓国潭陽(タミャン)にて コン・ソノク

 

コン・ソノクさんの誠実な人柄と作品に対する思いが詰まったメッセージに、胸が熱くなりました。そして、送ってくださったメールには下記の一文も添えられていたそうです。

日本の読者の皆さまへの初めてのご挨拶が重たすぎるのではないかと心配です。なので、小説はたんに小説としてのみお読みいただいた方がよいかと、ここに付け足しておきます。

 

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