詩人・谷川俊太郎氏と行くパジュ・ブックフェス

パジュ・ブックフェスティバル2013 ツアー(2013年9月28日~9月30日)

パジュ出版都市 は、出版、印刷、紙や本の流通など出版系企業を一堂に集めた計画都市で、韓国の北西部、京畿道(キョンギド)にあります。この地で毎年秋に開催されている本の祭典「パジュ・ブックソリ」(9月28日~10月6日)を、現代韓国文学=K文学を日本に率先紹介する出版社クオンが紹介します。

大好評だった昨年に引き続き、催行された「パジュ・ブックソリ2013」見学ツアー。今年のプログラムは、ちょっとひとあじ違います。 なんと、詩人の谷川俊太郎さんが本ツアーに同行し、ブックソリで韓国の国民的詩人・申庚林さんとの対談イベントにも参加するのです! 訪韓は2回目で、20年ぶりくらいだという谷川さん。飾らない詩人の素顔ものぞける、貴重な体験となりました。

その他、「パジュ・ブックソリ」見学をメインに、谷川俊太郎さんと申庚林さんの対談イベントへの参加、大明港での海鮮市場観光、近郊のヘイリ芸術村の見学、出版都市内の出版社見学、最終日はソウルにも立ち寄るという盛りだくさんな内容だった本ツアー。 その内容を、谷川さんのお手伝い人として参加した、編集者Kの視点からご紹介します。

9月27日(金) 1日目:韓国へ出発

「パジュ・ブックソリツアー」3泊4日の旅の始まりは、羽田空港から。翻訳者、ライター、出版関係者など、韓国とご縁の深いお仕事をされている方や、長年通われているという方が多かった今回のツアーメンバー。旅慣れた方が多く、韓国に長年通っているという方も。 集合時間前に問題なく全員集合し、いざソウルへ!

機内食は参鶏湯風?の韓国料理。“一日一食健康法”を実践中の谷川俊太郎さん、すごくおいしそうな機内食だけれど、どうするのかなあ~?と興味津々で様子をうかがっていると……ばっちり召し上がってました! あとでお伺いしたら「いや~、なんか興味があって。おいしかったよね」とのこと。ヨカッタヨカッタ。魅惑の韓国料理の数々を前に、一日一食を貫くのは至難のワザ、というか私だったら100%、不可能です。

定刻通り、金浦空港に到着。さわやかな青空が広がっています。関空組、現地集合組と合流し、クオン現地スタッフのチェさんとバンさんがお出迎え。空港では、記念撮影をパチリ。かわいい専用バスで、早速第1スポット、大明港(テミョンハン)へ向かいます。

 

大明港は京畿道西北部唯一の港であり、ソウルから一番近い港として、天然水産物だけ扱うそうです。海を眺める展望台や、軍艦が展示されている金浦艦上公園などもあります。そして美しい夕日を眺めるスポットとしても知られています。

海です。網を引くアジョシたち、観光客、釣り人。詩人は……詩人っぽい! 港でたたずんでおります。

 
 

魚市場。お好みの魚を選び、調理をお願いする食堂で早めの晩御飯。 市場の中には不思議なものも…。何か(多分、魚)の保存食みたいでしたが、灰色で…。 それから市場のおばちゃんが、元気(新鮮)なカニと、元気でなくなった(死んだ)カニを分けて大きなたらいに放り込んでいました。というか、元気なカニの中から元気のなくなったカニを取りだしていた…。使う料理が違うのでしょうね

チェさんが、てきぱきと注文、今はカニがおいしい季節なのだとか。さっそく食材を調達して、いざ食堂へ! お刺身をサンチュやエゴマの葉で巻いて、醤油やチョゴチュジャン(甘辛ミソ)で頂く韓国スタイルの海鮮食堂です。お刺身盛り、焼き魚、ゆでたカニ、辛い海鮮鍋、珍味のケブル(ユムシ)も。マッコリやビールがすすむ、豪華な晩御飯でした。

   

大満足で港町を後に、いざ出版都市へ。宿泊は「ホテル紙之郷(ジジヒャン)」。韓国の著名な小説家たちの名前が冠されたホテルのお部屋は、広くておしゃれ! 第一日目はあっという間に終了しました。

9月28日(土) 2日目:パジュ・ブックソリ開会式、ヘイリ芸術村

朝食後、本ツアーの団長で、この出版都市創立にも関わりのある舘野先生の引率で、パジュ出版都市内を徒歩で散策。昨夜から食べ続けている私たち、腹こなしにはぴったりです。 まずは、このフェスティバルを統括しているハンギル社へ。

 
 

人文書・児童書などで名高いハンギル社。ひときわ目出つ個性的な社屋は、本棚に入っている本をイメージしているのだとか。 さっそく社長の金彦鎬(キム・ウォンホ)氏の社長室へ案内され、この出版都市の成り立ちや、ハンギル社創設の経緯、出版にかける熱い思いを伺います。ハンギル社の社長であり、東アジア出版人会議の代表も務める氏は、韓国の、ひいてはアジアの出版文化界を牽引する重要な役割を担っている方。趣味のひとつだという、大砲並みに大きいカメラを首から下げて、話の合間に谷川さんを激写! うーんエネルギッシュ!

今回、谷川さんの訪韓と、ブックソリでの対談イベントが実現したのも、もともとはこのハンギル社で、谷川さんの2冊の児童書、『ワッハワッハハイのぼうけん』(日本では絶版)と『ここからどこかへ』(角川学芸出版)が韓国語に翻訳されたのがきっかけでした。できたてほやほやの新刊を前に、谷川さんもうれしそう。

それにしてもキム・オンホ社長、誰かに似ているような……と思ったら、「ものすごいエネルギッシュになった大江健三郎さん」だと気づきました。丸メガネ、お似合いです!

金社長の書のお道具が、社長室の入り口付近にあり、入ったときからみんな気になっていました。道具について質問したことから、金社長が谷川先生に「何か…」と依頼。「いいよ!」と二つ返事で、つらつらと1編の詩を書く谷川俊太郎さん。さすが!絵になる! ひらがなだけで書かれた代表作の「ことばあそびうた」。 みんな興味津々でのぞきこみます。

 

そのあとは、キム・オンホ社長の案内で、ヘイリ芸術村を散策。おいしくてヘルシーな“王様のビビンパ”(クオン:キム談)をぺろり。入口では、トルハルバンがお出迎え。一日一食のはずの谷川さん、ここでもしっかり召し上がってます!

 

その後、ハンギル社のブックミュージアムで、貴重な資料やウィリアム・モリスの展示を見学したのち、夕方までフリータイム。芸術村内のおしゃれなカフェでくつろいだり、博物館をのぞいてみたり……

    

「時計と剣の博物館」では、館長自らが、詳しく時計と剣のコレクションについて説明してくれ、ずっとついて回っていると、最後に地下室へ!刀鍛冶の道具を披露してくれたあと、マイクやスピーカーの設置された部屋で歌まで聞かせてくれて…。

再びパジュ出版都市に戻り、夕刻からは開会式に参加します。あいにくの雨ですが、びっしりとテントの下に並べられた椅子には、来賓や出版関係者をはじめ、家族連れの姿もたくさん見られました。力強い太鼓のパフォーマンスののち、来賓挨拶、主催者あいさつが続きます。そしてわれらが団長、舘野先生の韓国語でのスピーチも。長年韓国の文化人たちと交流を深めてきた舘野先生のスピーチには、ひときわあたたかく、大きな拍手が送られました。

 

爆竹花火、クレーンカメラ、煙幕と韓国エンタメパワー炸裂だった開会式。 「来賓の人たち、みんな演説うまいね! 原稿を読まずに、自分で挨拶するのが日本と全然違って面白かった」とは、谷川さんの感想。たしかに……。さすが、詩人は目の付け所がユニークです。

終了後は、お待ちかねのサムギョプサル。豚のばら肉を塊のまま焼き、お店のアジョシがはさみで丁寧にカットしてくれます。この肉の並べ方は、もはや芸術の域! 美しい~。ふだんはほとんどお肉を召し上がらない谷川さんも、ちょっと味見していたほどの美しさ。

 

ホテルに戻ってからは再び、自由行動。忙しい合間を縫って、建築関係や人文系の出版社ヒョヒョン出版社のソン・ヨンマン社長が会社を案内してくださいました。ヒョヒョン出版社のブックカフェでそれぞれ気にいった本を買ったり。

よもやま話に花を咲かせながら、ソン社長の奥様ご自慢のパッピンスをごちそうしていただきました! 小豆たっぷり、やさしいお味のパッピンスは絶品! あんなに肉を食らったあとなのに……スイーツは別腹、ですね。
こうして第二日目の夜は更けていきました。

9月29日(日) 3日目:谷川俊太郎×申庚林対談、歓迎会

午前中は自由行動。 活版印刷の工房でオリジナル名刺を作ってきた方々や、『長崎パパ』の著者、具孝書先生が遊びに来て下さり、先生の案内でDMZ(非武装地帯)などをドライブに行った方々などさまざま。

  
DMZを案内する具孝書先生/『長崎パパ』の著者、具孝書先生と訳者の関谷敦子さん

私は、午後の対談に備えて一足先に申先生、谷川さんと打ち合わせごはんへ。今回、谷川さんの2冊の児童書を翻訳出版してくださったハンギル社のメンバーと翻訳者のパク・スクギョン氏も一緒に、韓国定食のお店へ。お肉をあまり召し上がらない谷川さんと申さんのために、野菜をたっぷり使ったさまざまな滋味深いおかずが並びました。谷川さんは……ここでもしっかり、召し上がっています! なんとなくほっとするスタッフK。だってこんなにおいしいのですもの。

なごやかな昼食を終え、いよいよ対談の場所へ。宿泊している「ホテル紙之郷(ジジヒャン)」の1Fロビーが会場となります。

2012年6月に東京で行われた対談で、初めて会った申庚林さんと谷川さん。国籍も、母国語も、歩んできた人生の道のりもそれぞれまったく違いますが、どことなく共通する雰囲気をまとっているようにも思えます。それは二人の書く詩からもうかがえます。 申先生の詩は、谷川さんも絶賛の名翻訳者、吉川凪さんのすばらしい翻訳で日本にも紹介されています、ぜひご一読を。 

★「谷川俊太郎と申庚林、二人の詩人の特別対談」イベント★

「母国は違うけれど、どこか通じるところがあるような気がして、今日はうれしい気持ちでこの場に来ました」(申) 「今日は、児童文学についての話のほか、“老い”についても申さんと話してみたいと思っています」(谷川)

   

そんな二人のあいさつで始まった対談。『ワッハワッハハイのぼうけん』『ここからどこかへ』の翻訳者であるバク・スクギョン氏の司会で、対談は進行してゆきます。的確な同時通訳が入ったおかげで、日本語のみ、韓国語のみわかるというお客様にも、ストレスなく楽しんでいただけた模様。1時間という短い時間の中で、鉄腕アトムの歌あり、お互いの作品の日韓両国語による朗読あり、会場からの質疑応答タイムありと、たいへん充実したひとときとなりました。  質問の時間では、「詩人になりたい」という若者が複数人いて驚き!(私だけかな?) 詩人の対談の来場者なので、当然かもしれませんが、日本で「詩人になりたいです!」という若者の生の声を聞いたことがなかったので…。 谷川先生の「ぼくは今82歳だけれども、82年生きたぼくがここにいるというよりは、小さいころのぼくから、82歳になったぼくまでが、全部自分の中にいて、それがいつでも出て来られる。いつでもこどもの心でものをみたり、感じたりできるのが詩人に大切なこと、と(確か…)おっしゃっていました。とても共感!

 

対談の詳しい内容については、いずれまた、クオンHPにて紹介したいと思います。 最後にお互いに贈る言葉として、谷川さんから申先生には「生きててくださいね」、申先生から谷川さんへは「健康でいてくださいね」と言い交しつつ、対談は無事終了。最後はサイン会で締めくくりました。

その後、谷川さんと申さんは、ハンギル社のキム・ウォンホ社長とともに再びハンギル社社屋へ。写真撮影などしたのち、社長室にて韓国ヴォーグの取材を受けます。近年は、一時期よりも詩集の売り上げが落ち込んでいるとはいうものの、日本と比べると格段に詩集が売れている国・韓国で、谷川さんの詩がどのように読まれるのか、興味深いですね。 さすがはヴォーグ、カメラマンさんからはさまざまなポージングの指導が! この日の谷川さんのお召し物についても質問が出ましたが、これは親友の故・武満徹さんの形見だという、ハナエ・モリのジャケット。おしゃれ!

 

夜は印刷会社主催によるパジュ・ブックソリの歓迎パーティーへ。この日は、各国からお客様が集まりました。日本からは、我々ツアーメンバーのほか、出版社や編集者のみなさん、今年の「パジュブックアワード2013」著作賞を受賞した、歴史学者の和田春樹さんの姿も。日本、韓国、中国の出版関係者がずらりとそろう会となりました。 余興では、韓国の伝統芸能、パンソリや古典舞踊を堪能。あでやかな姿に一同、釘づけ!

 

パーティー終了後、いよいよソウルへ。仁寺洞にできた新しいホテル、センターマークホテルに着いたのは、夜も更けたころ。めいめい、夜の仁寺洞の町を散策したり、屋台でちょっと一杯ひっかけたり……こうして、第三日目も過ぎてゆきました。

9月30日(月) 4日目:仁寺洞散策、申庚林先生との再会

基本の3泊4日の日程は、本日が最終日……ですが、本ツアーの魅力は、大手旅行会社のツアーと違って、アレンジ自在、フリータイム満載なところ。ツアーメンバーのうち、半数は延泊して、ソウルでお仕事をされたり、観光したりとアクティブに過ごされるようです。 さみしいですが、私も谷川さんも、本日が韓国最終日。名残惜しい気持ちでいっぱいですが、朝のうちにパッキングを進めておきます。

この日はランチをごちそうしてくださるという申先生とお昼に仁寺洞で待ち合わせ。 その前に、せっかくだから仁寺洞の街でおみやげを買いたい!という谷川さん、恵さん(谷川さんのミョヌリ、息子さんのお嫁さんです)とともに、仁寺洞観光に繰り出しました。 古いものが好きだという谷川さんの希望で、高そうなところからそうでもないところまで、玉石混交の古道具屋めぐりへ。古い蓄音機や面白い骨とう品などを、興味津々で眺める谷川さん。

仁寺洞キルを端まで歩いたのち、あるお土産物屋さんで、谷川さんはきれいな真っ白いポジャギを購入しました。「額に入れて、絵画のように楽しむつもり なのだとか。詩人、おしゃれすぎます……!

 

そして約束の11時。申先生とお会いしたのは、仁寺洞の「ヨジャマン」というお店です。ちょっと変わった店の名前は、この店のオーナーであり、映画監督でもあるイ・ミレさんの故郷の地名なのだとか。ここでも、一日一食のはずの谷川さん、大いに召し上がっております! 菜食中心の申先生と谷川さんのために、たくさんのナムルやキムチ、ジョンと、甘辛く煮つけたお魚が食卓に並びました。

おいしいご飯をいただきながら、二人の共著の内容や進め方について、具体的に打ち合わせ。コンパクトながら、ぐっと中身の濃い打ち合わせとなりました。二人の詩人による共著、今からわくわくします。 書籍用の写真を撮影して、申先生とはここでお別れ。 少年のようなはにかんだ笑顔が素敵な申先生、どうぞお元気で!

 

変わりゆくソウルの街並みを眺めながら、タクシーに分乗して、一路、金浦空港へ。夕方、飛行機は無事、金浦空港を旅立ちました。

旅慣れた大人の方が多かった印象の今年のブックソリツアー。不思議なご縁で今回旅の道連れとなり、さまざまな体験を共有し、ツアーの醍醐味をたっぷりと感じることができました。いつもの観光では少し物足りなくなってきたなあ、という方にぜひおすすめです。 クオンは来年もこのパジュツアーを企画予定です。ご期待ください。


金浦空港にて。谷川さん、お疲れさまでした。

※ちなみに写真の一部は、谷川俊太郎さんファンである東大の留学生、スーザン・テイラーさんが撮影してくれました。 カムサハムニダ。