『ラクダに乗って』刊行記念イベントレポート

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2012年6月30日(土)、在日本韓国YMCAスペースYホールにて、『ラクダに乗って』刊行記念イベントが開催されました。
韓国を代表する詩人シン・ギョンニム氏と日本を代表する詩人谷川俊太郎氏の対談とあり、事前申し込みでも多数の御応募を頂きました。ありがとうございます。
当日会場は満員、無事イベントを終了することができました。
今回はそんなイベントのレポートを写真たっぷりでお届けいたします。


打ち合わせ中のお二人。緊張した表情も見られます。
イベント開始前には、受付付近からこっそりと客席を覗く谷川氏の姿も見られました。皆さん、お茶目な谷川氏に気付きましたか?
拍手とともにお二人が入場され、いよいよイベントスタートです。


いったいどんな話をされるのかと思うと、

お互いの結婚歴について。
「(二回の結婚を経て)もう結婚する気はありません」とのシン氏に、谷川氏も「(僕も三回結婚に失敗してるんですけど)そうですよね」と即答。会場の笑いを誘いました。
やがて、二人の「詩を書くこと」についてのお話へ移ります。
シン氏が詩を書き始めたのは、朝鮮戦争の直後でした。当時、街並みは戦争の跡が色濃く、叙事詩的なものを創作し始めたそうです。
「近代、韓国では国家、民族を代弁するものが詩であった。韓国の読者は欲張りですが、社会的・歴史的な想像力を基にして、かつ、芸術的な完成度を求めているんだと思います」


詩人は知識人、社会で発言を求められるという部分が韓国にはある、というお話へ。
「詩人への一般人からの尊敬はまだまだありますね。今では政治家たちが詩人と親しくして、そのことをアピールする政治家がいるくらいです」
韓国では、“詩が判らない奴”というけなし言葉があるとのことでした。
「それが韓国では一番の悪口」
「政治家たちは現代詩を読んでるんですか?」
「政治家はたくさん読んでると思います」
「日本では詩人というのはどうも韓国ほど認められてなくて。文化人として認められてるんですよね。僕なんかは詩を読んでなくても文化人としてメディアに呼ばれることが多いんだけれども韓国はどうなんですか、詩人として意見を求められるんですか?」
「勿論韓国でも文化人ですが、文化人というよりも詩人といった方が力がある」
「韓国の詩人の方が日本の詩人よりもお金持ちじゃないかって思ってたんだけどそんなことはない?」

韓国は詩の賞金がすごいです。
「賞金も多いし、賞もとても多いので、5000万ウォンくらいの……今はレートが悪すぎて日本円で400万くらいにしかなりませんが、それくらいのは沢山ありますよ」
「400万が沢山ですか!」
シン氏は以前、賞で二億ウォン貰われたそうです。
日本円にして1700万円。一般企業が設置している賞とのことでした。


まだまだ話題は尽きませんが、時間も迫ってきたということで朗読のコーナーへ移ります。
今回はお互いの著作から数作ずつ、お二人がそれぞれ日本語と韓国語で読み上げます。
シン氏の著作からは「さすらいびとの唄」ほかを朗読しました。
「この(「さすらいびとの唄」)詩を読んでいるときに、僕は若い時にかいた「かなしみ」という詩を思い出しました」
「私も、谷川先生の「かなしみ」という詩を読ませていただいてびっくりしました。あまりにも似ていて」
「ね。それで、僕は共通の完成があるんだって思って嬉しくなりました」
「やっぱり、異国の詩人の詩に、自分と同じ詩を見つけるって吃驚することで。嬉しかったですね」
谷川氏の著作からは、「ほん」ほかを朗読します。
「次の詩(「ほん」)はすべて平仮名表記なんですが、シンさんは今、漢字は使わないで、ハングルだけで書いていらっしゃるんでしょうか」
「韓国の表記は基本的にハングルなんですけれども、ハングルの中にも漢字で表記するものがあって。それを最初は漢字で書いたりしてたんですが、今はすべてハングルです。漢字が一文字でもあれば、読者が読まなくなってしまうので」
「ハングルと平仮名は違いますけれども、でも、日本語ではひらがな表記だけではどうしても詩は書けないですよね」
「ひらがなとかと違って、ハングルだけでも成り立つので、そうしてしまうひとは多いと思います。私個人としては、詩集のタイトルは自分の名前だけでも漢字を入れたいなって思うんですけれども、名前を漢字で書いてしまうと、名前が読めないって人が多くなってしまうので、出版社側が嫌がりますね」

最後にこのイベントの感想をお聞きしました。
「谷川さんの日本語を聴いて、日本語って美しいんだな、って思いました。せっかくのチャンスを与えていただいたので、もっと日本語を勉強して、日本語で詩を読んで、日本語で朗読できるようにしたいと思いました。ただ高齢で、どこまで付いていけるかわからないですけれども頑張ってみます。それから、今日初めてお会いしたんですけれども、谷川さんの印象はほんとうに純真無垢、と言っていいんでしょうか、ほんとに少年のまま、詩のようにとてもきれいで、とうめいな、美しい、詩のような、そんな印象がありました」
「ぼくもなんか、シンさんも外国の詩祭なんかに何度かいらしたことがあると思うんですけれども、そういうときには、あんまりこう個人的にお付き合いできないですよね。プログラムもあるし。だから、やっぱり詩人っていうのは一対一で話すのが一番いいと思うので、」
「海外で詩人の集まりがあると多数の方がいらっしゃるんですが、一対一でこんなに話すのは初めてです」
「時間的にそんなに長くないのがほんとに残念なんですけど、でもとにかく、生の声が聞けて、お話ができるっていうのは活字で読むのと全然違いますね。良い経験をさせていただいて、ほんとうにありがとうございました。お互い身体に気をつけましょうね(笑)」


イベント後のサイン会にも沢山の方が並びました。
お二人とも、サインに並んだ皆さんと会話をしつつ、終始和やかにサイン会が進みました。

イベント終了後、別室にて簡単な『おわかれ会』を行いました。


ならんでお菓子を食べるお二人です。


そして最後に、『おわかれ会』参加者でお二人を囲んでの記念撮影。
参加者の皆様、谷川さん、そしてシンさん、本当にありがとうございました!